元気と美肌のもと「ヒートショックプロテイン」【ストレスで増える「HSP」の健康と美容への作用】

湯船につかりながら外の景色を眺める女性
本記事では、ヒートショックプロテイン(HSP)の健康と美容への作用や、HSPの増やし方、「HSP入浴法」の具体的なやり方・注意点などをお伝えします。

ヒートショックプロテイン(HSP)とは

ヒートショックプロテイン(HSP:Heat Shock Protein)とは、私たちの体が「熱」などのストレスにさらされた際に、細胞内に増加するたんぱく質の一群です。
「熱ショックたんぱく質」や「ストレスたんぱく質」ともよばれます。

私たちの体は約37兆個の「細胞」でできています。

細胞は、水やたんぱく質、核酸、炭水化物、脂質などの有機物、無機物などから構成されています。

ヒトがストレスを受けると、細胞内のたんぱく質が傷害されます。

その傷ついたたんぱく質を修復したり、修復不能な場合は分解を促したりし、異常な細胞の蓄積を防いでいるのがHSPです(詳しくは後述します)。

このたんぱく質は、ショウジョウバエに熱ストレスを与える実験で発見されたため、「ヒートショックプロテイン」と名付けられました。

後の研究で、HSPは熱ストレスだけではなく、「あらゆるストレス」によって増加することがわかりました。

たとえば、以下のようなストレスによってもHSPは増加します。

  1. 圧力などの物理的ストレス
  2. 細菌感染などの科学・生物学的ストレス
  3. 精神的ストレス
  4. 紫外線
  5. 放射線
  6. 低酸素
  7. アルコール
  8. 薬剤
  9. 酸・アルカリ(pH)

ちなみに、HSPを持っているのはヒトだけではなく、動物や虫、植物、菌など、ほとんどすべての生物の体内に存在します。

HSPには、さまざまな種類(HSP90やHSP70、HSP60、HSP40、HSP27など)があり、大きく分けると8種類ほど、細かく分類すると100種類以上あります(分子量によって区別されています)。

本記事では、もっとも盛んに研究されているHSPのひとつである、分子量が約7万のHSP70の情報をメインにお伝えしていきます(とくに断りがない限り、本記事では、「HSP=HSP70」とお考えください)。

体内のヒートショックプロテイン(HSP)が増加することで、健康や美容への良い作用が期待できます。

以下で詳しくみていきましょう。

HSPのはたらき

約37兆個あるヒトの細胞には、その一つひとつに数十億個のたんぱく質が収まっています。

そのたんぱく質のサポートをするのがHSPの役割です。

たんぱく質は「折りたたみ式の立体構造」をしているのが正常な状態です。

HSPは、こういったたんぱく質の構造を制御し、たんぱく質がそのはたらきを終えるまで付き添い、支え続けます。

このようなはたらきをHSPの分子シャペロン作用といいます。

シャペロン(chaperon)とは、フランス語で「社交界に初めて出る若い女性に付き添う女性(介添(かいぞ)えの女性)」を意味します。

HSPの具体的なはたらきは次のとおりです。

  1. 細胞の保護(たんぱく質の修復・分解)
  2. 免疫増強作用

細胞の保護(たんぱく質の修復・分解)

HSPには、たんぱく質を「修復」もしくは「分解」する作用があります。

たんぱく質の修復

前述したとおり、ヒトは種々のストレスを受けると、体内の細胞内にあるたんぱく質が傷害されます。

それが繰り返され、細胞内に異常なたんぱく質が蓄積していくと、やがて細胞は病的な状態となります。

その結果として、さまざまな不調や病気が現れます。

HSPは傷ついたたんぱく質を修復し、細胞が異常化するのを防いでいます。

たんぱく質の分解

種々のストレスによってたんぱく質が傷害されると、HSPはたんぱく質の修復を試みますが、ダメージが大きく修復不能な場合は「分解」をします。

そうすることで、病的な細胞の蓄積を防いでいるのです。

以上のことから、HSPが持つたんぱく質を修復・分解する作用は、「健康」を維持するうえで不可欠な存在だといえるでしょう。

免疫増強作用

私たちの体の中には、異常な細胞(がん細胞など)や細菌、ウイルスなどと戦う細胞であるリンパ球(白血球の一種)が存在します。

リンパ球は、「T細胞」「B細胞」「ナチュラルキラー細胞(NK細胞)」の3つに分類されます。
HSPには、これらの細胞の数を増やしたり、活性化させたりするはたらきがあります。

HSP自体が細菌やウイルスと戦うことはありませんが、前述した体を守る細胞(リンパ球)の補助をすることで、間接的に私たちの体を守っています。

HSPの美容への作用

HSPのはたらきは、「体の不調や病気の予防」だけにとどまりません。

筋肉や皮膚、髪、爪といった体の各部位にはたんぱく質が多く存在するため、たんぱく質を修復する作用のあるHSPは、「美容」の面においても重要な存在だといえます。

HSPの美容への作用は次のとおりです。

  1. シミ・シワ・たるみの予防
  2. 皮膚の免疫力の向上
  3. 体の糖化・酸化の予防(アンチエイジング効果)

シミ・シワ・たるみの予防

これまでは、「HSP70」についてお伝えしてきましたが、美容に深く関係するHSPとして、HSP47があります。

HSP47もHSP70と同様の方法(入浴など)で増やすことができます。
HSP47には、コラーゲンの産生を手伝うはたらきや、つくられるコラーゲンの質を向上させるはたらきがあります。
コラーゲンとは、美容に深く関与するたんぱく質の一種です(体を構成するたんぱく質のうち、約30%を占めています)。

肌が紫外線を浴びるとメラノサイト(メラニンをつくる細胞)に信号が送られ、メラニン色素(シミのもと)が作られます。

慶応大学薬学部教授、水島徹先生の実験によって、HSPには紫外線ストレスから肌を守り、メラニンが過剰に生成されるのを防ぐはたらき(シミ予防効果)がある、ということがわかっています。

また、紫外線には、肌の内部に「分解酵素」という物質をつくるはたらきがあります。

この酵素が皮膚のコラーゲンを分解することでシワやたるみができます。

HSPには、分解酵素が活性化するのを抑えるはたらきもあるため、シワやたるみの予防にも効果的だといえます。

皮膚の免疫力の向上

前述したとおり、HSPには「免疫増強作用」があるため、病気のみならず、肌トラブルに対しても抵抗力の向上が見込めます。

具体的には、皮膚の感染症や化膿、アレルギーなどを予防する効果が期待できます。

体の糖化・酸化の予防(アンチエイジング効果)

体が老化する主な原因としては、「糖化」や「酸化」といったストレスが挙げられます(参考記事:老化の原因となる「糖化」と「酸化」【AGEsと活性酸素が増える原因と対処法】)。

HSPには、これらのストレスによって傷害されたたんぱく質やDNAを修復する作用があるため、アンチエイジングにおいても欠かせない存在だといえます。

HSPの増やし方

HSPを健康的に増やす方法は次のとおりです。

  1. 入浴
  2. 運動
  3. お湯洗顔・ホットタオル

入浴

HSPをもっとも効率的かつ手軽に増やす方法は「入浴」です。

適度な温度のお湯に適切な時間入り、入浴後に体を「保温」することでHSPの増加が促されます。

具体的な入浴の方法は後述します。

運動

「ストレス負荷」のある運動によってもHSPは増加します。

ストレス負荷のない運動(ゆっくりとした散歩など)ではHSPは増加しない、とされているため、ある程度は「きつい」と感じる運動をする必要があります。

心拍数が少し上がり、軽く汗ばむような運動(「少しつらいな」と感じる運動)がベストです。

たとえば以下のような運動です。

  1. ジョギング(速歩き)
  2. 軽い筋力トレーニング
  3. サイクリング
  4. 水泳
  5. 踏み台昇降
  6. 縄跳び
  7. ダンス

運動時間の目安としては「30分程度」ですが、体調などを考慮して調節してください。

また、運動をする際は、筋肉や関節などの痛みに注意しながら行いましょう。

いうまでもなく、これまで運動習慣のなかった人がいきなりハードな運動(ランニングや高負荷の筋力トレーニングなど)をすると体を壊す原因となるので避けましょう。

お湯洗顔・ホットタオル

全身のHSPを増やすには入浴などが必要となりますが、皮膚表面のHSPだけであれば、お湯を用いた洗顔やホットタオルなどでも増やすことができます。

具体的な方法は以下のとおりです。

  1. 42℃のお湯で洗顔をする(約3分間)
  2. 42℃のお湯で温めたタオルで保温をする(約2分間)

HSP入浴法

より効率的にHSPを増やす入浴法として、「HSP入浴法」があります。

これは、HSP研究の第一人者である伊藤要子医師が考案されたものです。

HSP入浴法では、入浴によって体温を38℃まで上げ、入浴後は体を保温して、37℃以上の状態を10〜15分間キープさせます。

そうすることでHSPが大きく増え、健康や美容へのさまざまな良い効果が期待できます。

HSP入浴法の主な効果は次のとおりです。

  1. 低体温の改善
  2. 疲労回復
  3. 免疫力の向上
  4. 美肌効果
  5. 老化予防
  6. 代謝促進(ダイエット効果)
  7. 精神的ストレスの緩和

HSP入浴法の具体的なやり方は以下のとおりです。

  1. 入浴前に水分補給をする
  2. 40〜42℃のお湯につかる
  3. お湯の温度の低下を防ぐため、頭部以外の部分の風呂ふたを閉める(夏場以外)
  4. 適切な時間が経過したら上がる(入浴時間は下記の表を参考にしてください)
  5. 常温以上の飲み物で水分補給をしながら、適切な室温の部屋で10〜15分間保温をする(保温に適した室温は、夏場では27〜30℃、冬場では20℃程度です)

肩までお湯につかった場合の入浴時間の目安は以下のとおりです。

全身浴の入浴時間(目安)
お湯の温度入浴時間
42℃10分
41℃15分
40℃20分

自律神経研究の第一人者である小林弘幸医師の研究によって、お湯の温度が42℃以上、もしくは入浴時間が15分以上の場合は自律神経が乱れ、その結果、体調不良や不眠などを招くおそれがあることがわかっています(参考記事:自律神経の乱れを整える方法:生活習慣の修正・ストレスへの適切な対処)。

そのため、41℃以下・15分未満の入浴をおすすめします。

また、血行促進効果のある入浴剤を使用する場合は、入浴時間が上記の表より5分ほど短くても効果が期待できます。

半身浴の場合は、上記の表よりも3〜5分程度長めに入浴しましょう。

HSP入浴法は、週2日(2〜3日おき)でも効果があるとされています(例:日曜日と木曜日)。

むしろ、HSP入浴法は週2日にとどめるべきだと思います。

なぜなら、熱め(41℃や42℃)のお湯での入浴を毎日のように繰り返すことで、心臓や血管への負担が大きくなりすぎると考えるからです。

HSP入浴法を行った際のHSPの量は、2日後をピークに、1〜3日、もしくは1〜4日ほど増加した状態が続きます(1週間後には元の状態に戻ります)。

そのため、HSPが減少しだすタイミング(入浴の3〜4日後くらい)に再びHSP入浴法を行うことで、十分にHSPの効果を維持することができます。

以上のことから、体への負担を最小限に抑えつつHSPの効果を得るためには、HSP入浴法を行った後の2〜3日は、ぬるめ(40℃以下)のお湯に10分程度つかることをおすすめします。

ちなみに、HSP入浴法を3ヶ月ほど続けていると耐性がつき、効果を実感できなくなることがあります。

そのような場合は、1〜2週間ほどHSP入浴法を中止しましょう。

入浴の際の注意点としては、決して無理をしない、ということです。

入浴中に体の異変(心臓がドキドキする、クラクラするなど)を感じたら、無理をせずに上がりましょう。

人によっては、熱いお湯につかることでヒートショック熱中症、のぼせなどを起こす可能性があるため、高齢者や高血圧・糖尿病・心血管疾患などを患っている人は、医師に相談してから行ってください
ヒートショックとは、大きな気温(温度)の変化によって、血圧が急激に上下し、心臓や血管に病変(心筋梗塞や大動脈解離、脳内出血、脳梗塞、一過性脳虚血、不整脈など)が現れることです(冬場の浴室やトイレで多発します)。

また、健康な人でも、お湯の温度が上がるほどにヒートショックのリスクが増加するため、寒さが厳しい日の入浴は、ぬるめ(40℃以下)のお湯で行うことをおすすめします。

夏場の入浴

夏場の入浴は熱中症のリスクが大きくなるため、入浴前にはしっかりと水分補給をしてください。

入浴後には多量の汗をかきますが、その状態のままでいると、気化熱によって体温の急降下を招くため、しっかりと汗を拭きましょう。

その後は、衣服(Tシャツやバスローブなど)を着用し、寒くない場所で休息しましょう。

入浴後10〜15分間は冷房や扇風機に当たることや、冷たい飲み物を飲むことは避け、体温が37℃以上をキープするよう心がけましょう。

保温の際は、熱中症などを予防するため、常温以上の飲み物でしっかりと水分補給をしてください。

冬場の入浴

冬場は、入浴の前に部屋と浴室、脱衣所のすべてを暖めておきましょう。

そうすることで、入浴前後の急激な体温の変化が起きづらくなり、HSPの増加のみならず、ヒートショックの予防にもつながります。

入浴の際は、いきなり頭や肩にお湯をかけるのではなく、まずは手足にかけ湯をし、少しずつ体温を上げていくようにしましょう。

冬場は体温が下がりやすいため、入浴後は、できるだけ早く服を着るようにしてください。

また、冬場でも熱中症は起こり得るので、入浴前後の水分補給はしっかりと行ってください。

寒さが厳しい冬場は、寒暖差によってヒートショックが生じやすくなるため、HSPの増加よりも、ヒートショックの予防(お湯の温度を40℃以下にする、部屋・浴室・脱衣所を暖めるなど)を優先的に行いましょう。

気持ちよさそうに湯船につかる女性
お伝えしてきたとおり、HSPをもっとも効率的に増やす方法は「入浴」です。

湯船につかることは、HSP以外にも多くのメリットがあります。

たとえば、睡眠の質の向上やメンタルの安定、筋肉や関節の柔軟性の向上などが挙げられます。

湯船につかることを習慣化するとなると、頻繁に風呂掃除をする必要が出てくるうえに、水道代もばかになりません。

しかし、一日の終わりにお湯につかって体を癒やす、ということには、それ以上の価値があります。

適度に体を温めたり動かしたりし、良好な血流を維持することで、多くの病気や不調を未然に防ぐことができるのは間違いありません。

普段はシャワーで済ませてしまうという人も、これを機に湯船につかる習慣を身に付けてみてはいかがでしょうか。
参考