健康・美容・脳機能の維持に欠かせない「睡眠」【睡眠不足が招く弊害とその解消法】

ベッドの中で眠れずに天井を見つめる不眠症の女性
本記事では、睡眠不足による弊害や解消法、睡眠の基礎知識、理想的な睡眠の特徴などをお伝えします。

脳・体・メンタルを整える「睡眠」

普段、私たちが何気なくとっている睡眠の役割は、「休息」だけではありません。

睡眠は、学習記憶思考感情種々の病気などと深く関与しています。

「良質の睡眠」は脳・体・メンタルを整え、健康や美容、脳機能の維持・向上に大きく貢献します。

睡眠による作用を最大限享受するためには、睡眠の正しい知識を身につけ、生活に取り入れていく必要があります。

以下で詳しくみていきましょう。

睡眠の基礎知識

この章では、押さえておくべき「睡眠の基礎」をみていきます。

睡眠圧

私たちは、起きている時間が長くなるほどに眠気を感じるようになります。

この眠気のことを「睡眠圧」といいます。

この睡眠圧の強弱は、「体内時計のはたらき」や「疲労の度合い」などによって決まります。
「生物時計」ともよばれる「体内時計」は、概日(がいじつ)リズム(サーカディアンリズム)を形成するための24時間周期のリズム信号を発振する機構です(脳内の視床下部の視交叉上核(しこうさじょうかく)という部位に存在します)。概日リズム(サーカディアンリズム)とは、地球の自転による24時間周期の昼夜変化に合わせて、体内環境を変化させる機能です。ヒトの概日リズムは、多くの場合24時間よりも若干長いとされていますが、「同調因子」によって24時間に調節されます。この同調因子には、日光や人工的な光、時計、食事、運動、通勤・通学といった日々の習慣などがあります。
睡眠の改善には、いかにして適切な時間に睡眠圧を高めるか、が重要となってきます(詳しくは後述します)。

睡眠負債

睡眠負債とは、睡眠不足が借金のように積み重なった状態を指します。

睡眠負債がたまることで、心身にさまざまな不調が現れます(詳しくは後述します)。

睡眠負債がもたらす代表的な症状として、マイクロスリープ(瞬間的居眠り)が挙げられます。

これは、その名のとおり「1〜10秒程度の居眠り」を指します。

このほんの一瞬の居眠りは、睡眠負債から脳を守るための「体の防御反応」だといわれています。

この症状の恐ろしいところは、本人には眠っているという自覚がないところです。

集中すべき場面(会議や試験、接客の最中)でマイクロスリープが発現した場合、思いも寄らないトラブルを招いてしまうかもしれません。

また、車やバイク、自転車などを運転している際にマイクロスリープが現れることで、大きな事故につながるおそれもあります。

以上のことから、マイクロスリープは心身の健康を損なう原因となるばかりか、自他の人生を狂わせかねない恐ろしい症状だといえます。

日頃から運転をする習慣のある人は、くれぐれも睡眠負債をためこまないようにしてください。

ノンレム睡眠とレム睡眠

睡眠には、「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」という2つの段階があります。

レム(REM):「rapid eye movement」の略称(日本語では「急速眼球運動」という)。

この「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」を交互に繰り返すことで睡眠は成り立っています。

睡眠にはサイクルがあり、これを「睡眠周期(スリープサイクル)」といいます。

「ノンレム睡眠+レム睡眠」の1セットを「1周期」と数えます。

1周期は、およそ90分〜120分とされています。

6〜7時間眠る場合は、だいたい4周期くらいまで繰り返すことになります。

ノンレム睡眠

眠りはノンレム睡眠から始まります。

ノンレム睡眠とは、眼球運動をともなわない「深い眠り」を指します。

ノンレム睡眠は睡眠の深さによってステージ1~4(浅い→深い)の4段階に分けられます。

最初のノンレム睡眠がもっとも深い睡眠(ステージ4)となり、この時に多くの成長ホルモンが放出され、疲労回復や体の各部位の修復が行われます。

起床時間が近づくにつれて、ノンレム睡眠(深い睡眠)の時間は短くなっていきます。

ちなみに、深い睡眠であるノンレム睡眠中も「夢」をみることが確認されており、夢の内容は「抽象的でつじつまが合わないもの」が多いとされています。

レム睡眠

レム睡眠(急速眼球運動睡眠)時には、まぶたの下で急速に眼球が動くのにくわえ、骨格筋(抗重力筋)の筋活動の低下なども起きます。

比較的浅い眠りのため、このレム睡眠時に覚醒することで、スッキリとした目覚めを得られます。

起床時間が近づくにつれて、自然とレム睡眠(浅い睡眠)の時間が長くなり、体は覚醒に向けた準備を行います。

ちなみに、レム睡眠時にみる「夢」の内容は、「ストーリーがあって実体験に近いもの」が多いといわれています。

私たちは眠っている間にいくつもの夢をみますが、起床時に覚えている夢は「最後にみた夢」の内容とされています。

そのため、覚えている夢がストーリー性のあるものだったり、つじつまの合うものだったりする場合は、レム睡眠時に起きられた可能性が高いといえます。

睡眠の役割

睡眠の主なはたらきは次のとおりです。

  1. 脳と体の休息
  2. 記憶の整理・定着
  3. ホルモンバランスの調整
  4. 免疫力の向上
  5. 脳の老廃物の除去

脳と体の休息

睡眠の主なはたらきは脳と体の休息です。

日中にはたらいた脳と体をクールダウンさせ、翌日の活動に備えます。

また、体表や体内の異常(ケガなど)の修復も行われます。

記憶の整理・定着

睡眠は記憶と密接な関わりがあります。

睡眠による記憶への作用には、次のようなものがあります。

  1. 深いノンレム睡眠中:記憶の保存、嫌な記憶の消去
  2. レム睡眠中:エピソード記憶(いつどこで何をしたか)の固定化
  3. 浅いノンレム睡眠中:体で覚える記憶(意識せずに覚えられる記憶)の固定化

1の「深いノンレム睡眠」は眠り始めに多く出現し、この際に嫌な記憶の消去などが行われます。

一方の3の「浅いノンレム睡眠」は入眠初期や明け方に訪れ、このときに体で覚える記憶(楽器演奏やスポーツなど)の定着が行われます。

ホルモンバランスの調整

良い眠りはホルモンバランスを整えます。

ノンレム睡眠中に多く分泌される「成長ホルモン」は、子どもの成長のみならず、成人の筋肉や骨を強くする作用などもあるため、長く健康でいるためには睡眠は不可欠だといえます。

また、睡眠不足になると食欲を抑える「レプチン」というホルモンが減少し、同時に食欲を増す「グレリン」が増えます。

そのため、眠りの改善は肥満や生活習慣病の予防に大きく寄与すると考えられます。

くわえて、前述した「成長ホルモン」や生殖器の発育や機能の維持に関与する「性ホルモン」は、肌の水分と密接な関係にあるため、良い睡眠は健康だけではなく、「美容」にも効果があるといえます。

免疫力の向上

免疫は、先に述べた「ホルモン」と深く関わっています。

睡眠が不足するとホルモンバランスが崩れ、免疫のはたらきに異常をきたします。

具体的には、風邪やインフルエンザ、がんなどにかかりやすくなったり、自己免疫疾患やアレルギーが悪化したり、ワクチン接種の効果が低下したりします。

脳の老廃物の除去

神経細胞が活発な覚醒時、脳には「老廃物」がたまっていきます。

この老廃物はアミロイドβとよばれ、アルツハイマー型認知症の原因物質のひとつとされています。

睡眠には、このアミロイドβを除去するはたらきがあります。

そのため、睡眠不足の期間が長くなるほどにアミロイドβが蓄積していき、認知症にかかる可能性が増していきます。

理想的な睡眠とは

必要な睡眠時間は「年齢」や「疲労の度合い」などによって大きく変わりますが、だいたい7〜8時間程度眠るのが理想とされています。

年齢を重ねるごとに必要となる睡眠時間は減っていきます。必要睡眠時間の目安としては、10歳以下は8〜9時間、15歳で約8時間、25歳で約7時間、45歳で約6.5時間、65歳で約6時間となります。
睡眠は「長さ」にくわえ、「質」も重要となります。

布団の中に適切な時間(7〜8時間程度)いたとしても、夜中に何度も目が覚めていたり、入眠にかかる時間(入眠潜時)が長かったりする場合は「質の良い睡眠」をとれていない可能性があります。

特に睡眠の「質」が重要となるのは、最初のノンレム睡眠時(入眠後90分程度)です。

なぜなら、この時間帯に「自律神経の調整」や「成長ホルモンの分泌」「脳のコンディションの改善」などの大部分が行われるからです。

そのため、いかにして寝始め90分を深いものとするか、が勝負となります。

そのため、いかにして寝始め90分を深いものとするか、が勝負となります。

「理想的な睡眠」をまとめると以下のようになります。

  1. 睡眠時間は7〜8時間程度
  2. 入眠に長時間かからない(10分以内に寝つけるのが理想)
  3. 最初の90分に熟睡している
  4. 何度も目を覚まさない
  5. 眠り始めがもっとも深く、徐々に浅くなっていく

以上のような良い睡眠をとることのメリットは次のとおりです。

  1. 知識の定着を促す
  2. 技能の習得を促す
  3. 合理的な決断を下せるようになる
  4. 集中力・注意力が向上する
  5. 感情を整理する
  6. さまざまな病気や不調の発症を抑える
  7. 肌の状態を整える
  8. 肥満の予防になる

不適切な睡眠が引き起こす弊害

不適切な睡眠は、体やメンタルにさまざまな悪影響をもたらします。

ここでいう「不適切な睡眠」とは次のようなものを指します。

  1. 睡眠不足(目安:7時間未満)
  2. 寝過ぎ(目安:8時間以上)
  3. 1時間以上の昼寝

睡眠不足

睡眠不足が心身にもたらす弊害には以下のようなものがあります。

  1. 肥満
  2. 糖尿病
  3. 高血圧
  4. 冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症など)
  5. 精神疾患(うつ病、不安障害、アルコール依存、薬物依存など)
  6. 記憶力減退
  7. 意欲・集中力・注意力の低下
  8. 日中の眠気

睡眠不足は自律神経機能やホルモンの分泌を乱し、心身に悪影響を及ぼします。

くわえて、思考力や記憶力の減退を招き、仕事や学業に支障をきたすことも考えられます。

睡眠不足はQOL(生活の質)を低下させる大きな要因となり得るため、早期の改善が必要となります。

寝過ぎ

睡眠不足と同様に、「寝過ぎ」も体に多くの弊害をもたらします。

研究によると、成人が8時間を超える睡眠をとると死亡リスクが上がるとされています(子どもは8時間以上の睡眠が必要です)。

ほかにも、心血管疾患や精神疾患、生活習慣病などにかかる可能性が上がったり、頭痛やだるさ、気分の落ち込み、意欲・集中力・注意力の低下などを招いたりもします。

成人が寝すぎてしまう原因としては、慢性的な睡眠不足や過度の疲労、睡眠障害、精神疾患などが考えられます。

病的な眠気によって起きられない、もしくは生活に支障をきたしている場合は、睡眠障害専門外来や内科、精神科、心療内科などを受診するとよいでしょう。

1時間以上の昼寝

適切な長さの昼寝(仮眠)には「認知症」を予防する効果があります。

もっとも望ましい昼寝の長さは20分程度です。

研究によると、「30分未満」の昼寝をする人は、昼寝の習慣がない人に比べて、認知症発症率が約7分の1になるとされています。

また、昼寝の時間が「30分〜1時間程度」の場合は、認知症の予防効果は下がり、認知症発症率は約半分になるとされています。

「1時間以上」の昼寝をする人は、昼寝の習慣がない人に比べて認知症の発症率が約2倍になることがわかっているため、昼に長時間眠るのは避けましょう。

睡眠不足の解消法

睡眠不足を解消する方法は以下の2ステップです。

  1. 睡眠を妨げる要因を排除する
  2. 深い眠りをもたらす行動をとる

睡眠不足の解消には、「睡眠を妨げる要因」と「深い眠りをもたらす行動」を理解し、睡眠習慣を正していく必要があります。

睡眠を妨げる要因

睡眠を妨げる主な要因な次のとおりです。

  1. 飲酒・喫煙
  2. 寝すぎ
  3. 悩み・不安・精神疾患
  4. カフェイン摂取
  5. 呼吸器疾患(喘息や風邪、肺炎、COPDなど)
  6. レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)
  7. 興奮刺激
  8. 音・光
  9. 室温・湿度
  10. 体に合わない寝具

飲酒・喫煙

飲酒によって入眠しやすくはなりますが、眠りが浅くなることがわかっています。

くわえて、アルコールの利尿作用によっても覚醒しやすくなるため、良質な睡眠を確保しづらくなります。

また、喫煙によって体内のニコチンの量が増加するとアドレナリンの分泌が促進され、結果的に交感神経が活発になります。

就寝前の自律神経は、「副交感神経」が優位になっているのが望ましく、「交感神経」が優位だと入眠しづらくなります(参考記事:自律神経の乱れを整える方法:生活習慣の修正・ストレスへの適切な対処)。

いうまでもなく、飲酒と喫煙は、睡眠だけではなく健康やメンタルにも多大な悪影響を及ぼします。

これらの習慣がある場合は、できるだけ早く禁酒・禁煙することをおすすめします。

寝すぎ

寝すぎると睡眠リズムが乱れます。

その結果、適切な時間に良質な睡眠をとることが困難になります。

年齢や疲労の度合いによって異なりますが、成人の場合、「8時間以上の睡眠」は寝すぎの可能性が高いといえます。

悩み・不安・精神疾患

大きな悩みや不安を抱えていると入眠しづらくなったり、睡眠の質が悪くなったりします。

また、うつ病などの精神疾患が睡眠障害を招くこともあります(「睡眠障害→うつ病」もあります)。

カフェイン摂取

眠気を誘う脳内物質には、メラトニンアデノシンがあります。

カフェインには、これらのはたらきを阻害する作用があります。

くわえて、交感神経を活発にし、脳や体を活動モードにするはたらきもあります。

また、後述するレストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)とも深く関与しています。

摂取したカフェインが体の中で半減するのは、健康な人で4時間程度かかるとされています。

そのため、最低でも夕方以降はカフェインを摂取しないようにしましょう。

呼吸器疾患(喘息や風邪、肺炎、COPDなど)

眠りを妨げる慢性的な病気として「気管支喘息」が挙げられます。

ヒトは就寝時(夜間や明け方)に副交感神経が優位になります。

気管支は副交感神経が優位になると狭くなる性質があるため、入眠時や睡眠中は、息苦しさやせきといった喘息の諸症状が悪化しやすい状態となります。

重度の喘息は睡眠の妨げになるばかりか、命にも関わります。

喘息によって日常生活に支障が出ている場合は、一刻も早く病院を受診してください。

ほかには、「風邪」なども睡眠を妨げる要因となります。

鼻が詰まって眠れない、ということは誰しも一度は経験があると思います。

せきや鼻水などの症状がつらいときは決して我慢をせず、できるだけ早めに病院へ行きましょう。

レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)

レストレスレッグス症候群(別名:むずむず脚症候群)とは、安静にしているときに、脚や腕がムズムズしてじっとしていられなくなる病気です。

夕方以降に発症しやすく、体を動かすと一時的に症状が楽になるのが特徴です。

この病気のはっきりとした原因は解明されていませんが、鉄欠乏性貧血の人や、腎不全による人工透析を受けている人に多いといわれています。

飲酒や喫煙、カフェインの摂取などは、症状を悪化させるおそれがあるため控えましょう。

就寝時に脚や腕に不快感があり、それによって睡眠に支障をきたしている場合は、一度医療機関(睡眠障害専門外来、精神科、神経内科など)で診てもらいましょう。

興奮刺激

眠る前に刺激の強い行動をとると交感神経が優位になり、入眠しづらくなります。

たとえば、激しい運動、動画視聴、激しい音楽の鑑賞、口論、歌唱などが該当します。

眠る前は、ゆったりと本を読んだり、穏やかな曲を聴いたりし、できるだけ脳と体を使わないようにしましょう。

音・光

大きな音や強い光には覚醒を促す作用があります。

前述した睡眠物質「メラトニン」は、強い光を浴びることで分泌が抑制されます。

スマートフォンやパソコンの画面などから発せられるブルーライトや蛍光灯の光は、睡眠に悪影響を及ぼします。

日が暮れたら、できるだけこれらの光を避けるようにしましょう。

ちなみに、寝室に適した照明の色は、「電球色(オレンジ色)」です。

なぜなら、色温度の低い「電球色」の照明には、メラトニンの分泌を促進する作用があるからです(「昼光色」や「昼白色」の照明はメラトニンの分泌を抑制します)。

色温度とは、ある光源が発している光の色を表す尺度(単位)のことです。

室温・湿度

就寝時に理想とされる室温と湿度の目安は次のとおりです。

室温は暑くても寒くても睡眠の質の低下を招きます。

夏や冬はエアコンや暖房器具をうまく活用し、快適に感じる室温をつくりましょう。

また、睡眠中は喉が乾燥しやすいため、湿度も重要となります。

冬はもちろんのこと、夏にエアコンを使用する際にも加湿器を併用し、乾燥を防ぐようにしましょう。

そうすることで、夏風邪や喉の乾燥感をある程度は防ぐことができます。

体に合わない寝具

体に合わない寝具を使用すると、体に負荷がかかった状態で眠ることになり、睡眠の質の低下を招きます。

そればかりか、腰痛や骨のゆがみにつながることもあります。

目が覚めたときに体の痛みやしびれなどを感じる場合は、寝具が体に合っていない可能性が高いといえます。

そのようなときは、枕の高さや硬さ、マットレスの硬さや劣化具合、掛け布団の重さ、ベッドフレームのゆがみ(金具の劣化やゆるみ)などをチェックしてみましょう。

深い眠りをもたらす行動

深い眠りを得やすくなる行動は次のとおりです。

  1. 朝日を浴びる
  2. 就寝時刻と起床時刻を固定化する
  3. トリプトファンを多く含む食品をとる
  4. 夕食を食べる
  5. 深部体温を下げる
  6. 睡眠環境を整える

朝日を浴びる

ヒトは体内時計がリセットされてから、およそ14〜16時間後に眠気を感じるようになっています。

体内時計をリセットするもっとも有効な方法のひとつとして、「日光を浴びること」が挙げられます。

そのため、起床後すぐにカーテンや窓を開け、部屋の中に日の光が入るようにすることは、規則正しい睡眠習慣をつくるうえでの基本となります。

また、日光を浴びることによって、体内の「セロトニン」の量が増えます。

セロトニンは、夕方以降に睡眠を誘うホルモンであるメラトニンに変換されます。

ゆえに、就寝時間にメラトニンの入眠作用を得るためにも、日光を浴びることが必要といえます。

日光を浴びる方法としておすすめなのが、「朝の散歩」です(もちろん通勤・通学でも大丈夫です)。

なぜなら、セロトニンは運動をすることでも増えるからです。

朝に散歩をすることで、体内時計をリセットできるばかりか、「日光+運動」の相乗効果によって、効率的にセロトニンを増やすことができます(精神的につらいときの対処法:環境・思考・行動・脳内物質を最適化し、少しずつ慣れる)。

散歩をする時間帯としては、日の出から10時までの間がベストです。

20分〜1時間程度を目安に、体力や体調に合わせて行うとよいでしょう。

朝の散歩ができない日は、数分程度ベランダに出たり、窓際に座ったりし、朝日をしっかりと浴びるようにしましょう。

就寝時刻と起床時刻を固定化する

就寝時刻と起床時刻を固定することで、決まった時間帯に眠気を感じやすくなります。

前述したとおり、ヒトは体内時計がリセットされてから、約14〜16時間後に眠たくなります。

就寝時刻と起床時刻は、このことを考慮して設定しましょう。

以前は、22〜2時の間は成長ホルモンがたくさん出ると考えられていたため、この時間帯は「睡眠のゴールデンタイム」とよばれていました。

ところが、近年の研究によると、この説に科学的な根拠がないことがわかっています。

とはいえ、明け方や昼に就寝してもよいというわけではありません。

なぜなら、ヒトの体は日光を浴びることで、「骨の強化」や「メンタルの安定」といった多くのメリットを享受できるようになっているからです。

私たちの祖先が習慣としてきた、「夜に寝て朝に起き、日中に行動する」というのが「もっとも自然な生活」であり、体はそれに最適化されているのです。

イギリスの調査団体「UKバイオバンク」が行った研究によると、就寝時刻を22〜23時にすることで、心臓病などのリスクを減らせることがわかっています。

この研究によって、体内時計と睡眠のリズムを合わせることは、心臓発作や脳卒中のリスク低下につながるという可能性が示唆されています。

ちなみに、もっとも高リスクだったのは0時以降に就寝した人だったそうです。

以上のことから、夜の22〜23時に寝て、7〜8時間後くらいに起きるのが理想だといえます。
前述したとおり、必要睡眠時間は年齢や疲労の度合いなどによって異なります。必要睡眠時間の目安としては、10歳以下は8〜9時間、15歳で約8時間、25歳で約7時間、45歳で約6.5時間、65歳で約6時間となります。

トリプトファンを多く含む食品をとる

先に述べたとおり、眠りを促すホルモンであるメラトニンはセロトニンが変換されてつくられます。

このセロトニンは、日光浴や運動によって増えるとお伝えしましたが、「食事」によっても増やすことができます。

セロトニンはトリプトファンからつくられるため、トリプトファンを多く含む食物をとることで、セロトニンおよびメラトニンの増加を促すことができます。

トリプトファンを豊富に含む食品は次のとおりです。

また、トリプトファンからセロトニンをつくる際に必須となるビタミンとして、ビタミンB6が挙げられます。

トリプトファンを多く含む食品とビタミンB6を多く含む食品を同時にとることで、より効率的にセロトニンを生成できる可能性があります。

ビタミンB6は、鶏肉やマグロ、カツオ、サケ、バナナ、玄米、ニンニク、ゴマ、とうがらしなどに多く含まれています。

夕食を食べる

覚醒時にはたらく脳内物質として、ノルアドレナリンやヒスタミン、ドーパミンなどがあります。

これらがしっかりとはたらくことで覚醒度が上がり、日中のパフォーマンスが向上します。

ほかにも「オレキシン」という脳内物質があります。

この物質も覚醒状態を維持するはたらきがあるため、過剰に分泌されると睡眠に悪影響を及ぼす可能性があります。

夕食を食べないとオレキシンの分泌が促進されることがわかっているため、良い睡眠を得るためには「夕食抜き」は避けたほうが懸命です。

ただし、夕食の内容や時間によっては、睡眠に悪影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。

消化に時間のかかる食べ物(揚げ物や脂肪の多い肉など)はできるだけ避け、就寝の3時間前までには食事を済ませるようにしましょう。

そうすることで、睡眠中に胃腸が過剰にはたらくのを防止でき、睡眠の質の向上が見込めます。

また、逆流性食道炎や肥満などを予防する効果もあります。

深部体温を下げる

ヒトは「深部体温」が下がると眠たくなる性質があります。

厳密にいうと、「深部体温」と「皮膚温度」の差が縮まれば縮まるほどに眠気が強くなっていきます。

「深部体温」とは、脳や内臓といった「体の内部の温度」のことです。

一方の「皮膚温度」は、その名のとおり「皮膚(体の表面)の温度」を指します。

入眠時には、自然と手足の皮膚温度が上がります。

その結果、手足から体の熱が逃げていき、深部体温が下がります(そして眠たくなります)。

手足からスムーズに熱放散させるためにも、できれば靴下や手袋を着用せずに眠るようにしましょう(極度の冷え性の場合などは、この限りではありません)。

ちなみに、覚醒時の深部体温と皮膚温度の差は2℃程度(深部体温のほうが高い)ですが、入眠時には、手足からの熱放散により、その差が2℃以下に縮まります。

深部体温は上がった分だけ大きく下がろうとする性質があります。

そのため、入浴などによって一時的に深部体温を上げることで、深部体温の急降下を引き起こし、意図的に眠気をつくり出すことができます。

深部体温を十分に上げるためにも、入浴の際は湯船につかるようにしましょう。

40℃くらいのお湯に15分程度つかるのがベストです(結果として、深部体温が0.5℃ほど上がります)。

39℃以下のぬるま湯では体温の上昇が不十分となり、深部体温の急降下を招きづらくなります。

かといって、42℃以上の熱すぎるお湯では自律神経が乱れ、睡眠の質の低下や心身の不調を招くおそれがあります。

なお、入浴によって0.5℃ほど上がった深部体温が「入眠に適した温度」にまで下がるのは、入浴の約90分後とされているため、入眠の90分前くらいに入浴を済ませるのがベストだといえます(室温や着衣の保温性などによって違ってきます)。

そのため、忙しくて入眠の90分前に入浴ができない場合は、39℃以下の湯船につかる、もしくはシャワーで済ませるようにし、深部体温が上がりすぎないようにする必要があります。

睡眠環境を整える

先に述べたとおり、睡眠を妨げる外的要因には、「音・光・室温・湿度・体に合わない寝具」などがあります。

適切な時刻(22時ごろ)に就寝できたとしても、睡眠時の環境が悪ければ良質な睡眠は得づらくなります。

多くの人が快適だと感じる睡眠環境は次のとおりです。

  1. 無音に近い
  2. ほぼ真っ暗
  3. 室温20℃前後
  4. 湿度40〜60%
  5. 体に合った寝具
一般的には上記のような睡眠環境が推奨されますが、睡眠時のベストな環境は個人個人によって異なります。

「少しでも音がすると眠れないから耳栓をして寝る」という人がいる一方で、「テレビやラジオの音がなければ眠れない」という人もいます。

寝具も同様で、「腰痛があるから硬めのマットレスがいい」という人がいたり、「寝返りを打てないから、体圧分散性の高いやわらかいマットレスがいい」という人がいたりと、求めるものは人によって違ってきます。

そのため、ベストな睡眠環境を得るためには、「自分の体の特徴」や「寝やすいと感じる環境」を把握し、試行錯誤をする必要があります。

朝にベッドの中で気持ちよさそうに伸びをする女性
健康の維持には、「食事」「運動」「睡眠」の3つが重要となります。

あくまでも私見ですが、これらのなかでもっとも重要な要素は「睡眠」だと思います。

運動不足やハイカロリー食の生活が一定期間続いたとしても、大きな不調を感じることは少ないかと思います。

ところが、睡眠はそうはいきません。

1日でも睡眠を抜こうものなら、体はフラフラな状態となります。

くわえて、思考力や注意力の低下も招くため、生活に大きな支障をきたします。

それだけ、睡眠は私たちの体にとって必要不可欠な存在なのです。

睡眠には、人生の3分の1を費やすだけの価値が十分にあります。

「眠っている時間がもったいない」などというのはナンセンスです。

「良い人生を送るためにしっかりと眠る」という意識をもつようにしましょう。

お伝えしてきたとおり、「睡眠不足」はもちろんのこと、「寝すぎ」や「質の悪い睡眠」も健康や美容に悪影響を及ぼします。

日中に過度の眠気やだるさを感じる場合は、良好な睡眠をとれていない可能性が高いといえます。

そのような場合は、本記事などを参考にしていただき、できることから睡眠を改善していっていただければ幸いです。
参考